君のことは一ミリたりとも【完】
昔の関係では聞くことはなかっただろう彼女からの労りの言葉に胸が高鳴った。
「大丈夫、俺も仕事残ってたから。それにあんなことあったのに亜紀さんのこと一人で帰せるわけないじゃん」
「……」
「折角今は同じ家で暮らしてるんだからドライブデートしながら帰りたいんだよ」
シートベルトを装着している彼女に向かって口説き文句を放つが「はいはい」と軽くあしらわれ、ふっと笑みが溢れるとマンションに向かって車を発進させた。
「それにしてもこんな時間まで仕事してるんだね、大変じゃない?」
「たまにだから、それに今日できりよく終わったの」
「へぇ、おめでとう。折角だからワイン開けようか」
「アンタの狂った感覚についていけない」
亜紀さんの仕事が上手くいってるってことだから俺も嬉しいんだけどな。
運転に集中すると隣から熱い視線を感じ、赤信号で停車した隙に彼女に尋ねる。
「なに? どうかした?」
「いや……」
「……?」
「なんか疲れてない? 大丈夫?」
自分的には疲れを表に出さないように軽口を叩いていたつもりだったがどうやら彼女の前ではバレバレらしい。
最近、仕事が多忙な上に例の雑誌へのネタを入手しようと神経質になっているからかあまり寝ていなく、寝不足でもあった。