君のことは一ミリたりとも【完】
お願いだから、そう強く気持ちを込めて告げると空気を読める加奈ちゃんは「分かりました」と素直に頷き、足早にその場を去るとビルの入り口へと走っていった。
一面ガラス板のビルのエントランスに彼女の姿が消えていったのを確認すると顔から表情を消して女と向き合った。
すると小林は興味深そうに「あら」と、
「演技が上手なのね。今から俳優に転身したら?」
「いえ、この仕事が転職だと思ってるんで。それで今日は何か?」
向こうのペースに乗せられないように敢えて直ぐに話の核心を突く。それに出てきた車にはまだ人が乗ってあるようだし、早くここから離れたい気持ちがあった。
小林は赤いルージュを塗りたかった唇で弧を描いた。
「明日が約束の日なのに貴方と連絡が付かなくなったから会いに来たの」
「……」
「それで、何か大きなネタは掴めた?」
分かりきった答えを求める彼女に舌打ちをかましたくなる。きっと俺が向こうの雑誌について探っていることも知っているのだろう。
揺すっても決定的なネタが掴めないのはこういう系統の雑誌はギリギリのラインを攻める為、ほぼ何かしらの後ろ盾があって動いている。
それに対して一人で立ち向かうにはそれすらも貶めることができる絶対的な権力が必要となるがそれが俺にはない。
「舘と繋がりましたね?」
「ふふ、吃驚した? まさかどこにでもいそうな雑誌記者があんな胡散臭い男と繋がってるとは思わなくって。利用させてもらったの」
「まぁ、アレは……」