君のことは一ミリたりとも【完】
利用されるというよりかは利用する、というような人間だが。しかし彼女も舘とは利害の一致から繋がっているのだろう。
「ふふ、困ってるわね。このままだと貴方の彼女さん、大変なことになるかも」
「大変……」
その言葉で思い出した。この小林の仲間らしい男が亜紀さんのマンションまで彼女のことをストーカーし、結果彼女が怖がって俺に連絡をしてきたのを。
大事な人を傷付けられ、一瞬我を忘れそうになる。が、ここで逆上すれば向こうの手のひらの上で転ばされているようなものだ。
しかしこいつらのしたことは個人的に許せない。亜紀さんの為にも。
「だけど私たちもそれで仕事をしている。多少の犠牲は仕方がないことなの。それは同職の貴方だって分かるでしょ?」
「いえ、分かりませんね。どうやら仕事における信条が根から違うようだ」
犠牲の上に成り立つコンテンツなんてただ胸糞が悪いだけだ。
すると彼女の後ろに止まっていた黒塗りの車の運転席に座っていた男がプッとクラクションを鳴らした。それを聞くと小林は「時間ね」と、
「もう少し話をしていたいんだけど生憎こっちも時間がなくてね。今日はある用件だけ伝えにきたの」
「用件?」
「貴方の考え次第では今回の記事を出さない方向で検討してもいいと思ってるの」
「……は、」
思いがけない言葉に呆気に取られた俺に対してクスリと微笑んだ女は自分の胸ポケットからカードらしきものを取り出した。