君のことは一ミリたりとも【完】



「貴方、舘という男以外にも色んな繋がりを持ってるのね。調べてて吃驚しちゃった」

「……」

「実は今うちで人員を補充しようと思っていてね、それに相応しい人材を探していたの」


カードを唇に当てて目を細めた彼女に「まさか」と不穏な考えが頭を過ぎる。


「つまり、俺がそっちの仲間になれば記事は流すと?」

「本当に理解が早いのね。まあ、そういうこと。それに貴方ってきっとこっち側の人だと思うわよ。平然とした顔を浮かべながらも心の底では真っ黒でドロドロしたものを抱えている。違う?」

「……」


トンと俺の胸元を人差し指で触れた彼女はもう片方の手で持ってきたカードを差し出した。


「明日の夜このホテルで待ってるわ。勿論ネタを持ってきてもいいし、そうじゃなくてもいい。でもなにもなかった場合、分かってるわよね?」

「……お前」

「どの手を取るのかは貴方次第、そうでしょう?」


そう言ってカードをジャケットの胸ポケットに押し込み、ニタリと微笑んだ女は颯爽と車の方へ戻っていく。
助手席に乗り込むと直ぐに発進したその車はたちまち視界のうちから消えていった。


「(多少の犠牲……)」


これは俺の過去じゃない。彼女の過ちだ。
それでも事実が表に出て亜紀さんが悲しむのであれば、その罪を俺が肩代わりしてあげてもいい。

そうやって今までも生きてきたんだ。

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