君のことは一ミリたりとも【完】
『髪、伸びてもきっと亜紀に似合うよ』
初めて彼と寝た時に私の短い髪に触れて彼が呟いた。少しでも生瀬さんの好みの女になりたくて今までずっと短くしていた髪を伸ばす決心をした。
そのお陰で大学の同級生と久しぶりに会うと一回では気が付いてもらえないことが多々あった。それぐらい私はショートカットのイメージが強かったのだろう。
そういえば昨日も、高校の同級生に言われたな。
『その服、綺麗だね。雰囲気変わってるから初め気が付かなかった』
バチンッ
突然切れたゴムが指に当たってジンジンと痛んだ。何で今思い出してしまったんだろう、気分が悪い。
どうしてあの男のことを思い出してしまったんだ、私は。
『河田さん、俺と付き合おう』
「……」
昨日の出来事を鮮明に思い出し、私は絶句する。丁度生瀬さんが去った後、酒に酔った男に絡まれているところを同級生の唐沢に助けられた。
そしてアイツは散々私が男に振られたことをからかった挙句、あんな爆弾を落としてきたのだ。今思い出しただけでも吐き気がする。
私をおちょくるのもいい加減にしろ!
「(そもそも何で私に関わってくるわけ……)」
男に振られるという最悪な現場を一番見られたくない男に見られた。
唐沢爽太、私と同じ高校に通っていて昨日の同窓会でも顔を合わせた一人だ。