君のことは一ミリたりとも【完】
『それ、本当に思ってます?』
『思ってる思ってる、なんで?』
『嘘かなって思うくらい口にするので』
『ははは、亜紀は天邪鬼だな』
素直に口説かれてればいいのに、そう言って隣で横になる私の頭を撫でる。
彼の腕の中ほど心地いいことはなかった。ずっと親友だった優麻が結婚し、ぽっかりと空いとしまった穴を彼が埋めてくれていた。
自分を分かってくれる人は沢山いらない。自分は勘違いされやすい性格だが、それでも生瀬さんは「亜紀らしいね」と笑ってくれる。
それが大人の余裕を伺わせて、胸がときめきつつも二人の距離が切なくなる。
「亜紀」
急に私の手を取った生瀬さんが真剣な表情で言う。
『必ず妻とは別れる。だからその時までもう少し待っててほしい』
『……生瀬さん』
『もしそうなったら、俺と一緒になってくれる?』
私は絶対に千里さんには勝てないと思っていた。だからこの言葉を聞いたときは我を忘れて喜んだ。
やっと、この人が本当に私のものになる。私だけのものになるんだ。
「はいっ……」
私が生瀬さんを貰ってあげます。
そう言うと彼は苦笑いしながらも「男前」と口にした。
どうして今になってこんなに辛い思い出ばかり思い出してしまうのだろう。