君のことは一ミリたりとも【完】



「……」


ゆっくりと瞼を持ち上げると目の前に広がったのは見覚えのないピンクの天井だった。
どうやらベッドに寝かされているようで、ふかふかの布団に包まっていた私は体の力を抜く。

確かあれから、適当に誰かに電話しようと思って、そしたら唐沢が現れて……
アイツの背中におぶられながら家にまで帰ったんだっけ。

いや、絶対にここは家じゃない。

その違和感に覚醒すると体を起こして辺りを見回した。
ホテルの一室のようだがやけにベッドが大きい。もしや高い部屋なのだろうか。あと照明が変にギラギラしているような。

と、


「起きた?」


隣から聞こえてきた声に驚いて視線を向けると部屋に設置されたソファーに座りながらテーブルのパソコンに向き合う唐沢の姿があった。
彼はタイピングをしていた手を止めるとこちらをまっすぐに見つめてくる。


「あれ? 何も覚えてない? 河田さん熱で倒れて俺にSOS送ってきたんだよ?」

「……おぼえて、る」

「良かった、これで覚えてなかったら理不尽に殴られるかと思った」


どこか安心した様子の唐沢に腹立ちながら、自分からこの男に助けを求めてしまった事実に打ち拉がれた。
いくら窮地とはいえ、なんで私はこの男に連絡をしてしまったんだろう。しかもこの男も躊躇せずに助けに来るし。

ていうか! コイツと会うのってカフェでキスされて以来なんですけど!


「あのさぁ、河田さん。ちょっと言いづらいんだけど……」

「な、なに……」



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