君のことは一ミリたりとも【完】



ボスンと音を立てて落ちた枕から彼の不機嫌そうな顔が露わになる。


「そんなんで流されると思ってるわけ?」

「……可愛くない」

「は?」

「本当に河田さんって可愛げがない。甘えないし、意地っ張りだし」


これだから思春期は、とそっぽを向いて呆れたように溜息を漏らす唐沢に「何を言ってるんだ」と頭が真っ白になる。
私が思春期? んなわけない。ていうか思春期拗らせてるのは大人になっても私に楯突いてくる唐沢の方でしょ。


「結局何、私のことを本当に好きなわけ? なんで? どうしてそうなったの?」

「質問攻めやめて、俺にだってよく分かってないから」

「そんな状況でよく告白なんか出来たね」


それよりさっきの、「俺以外の男に泣かされてるのが嫌」って何?
唐沢がそんなことを思う資格なんてあるんだろうか。

しかし唐沢は再び私に視線を向けるとジロジロと人の顔を眺めてくる。


「けど、そういう頑なで意地っ張りな河田さんを見てると、不思議と俺のことで頭をいっぱいにしたいって思えてくるんだよね。だから俺は河田さんを落とすことにするよ」

「っ……」

「ドキってした? じゃあやっぱり一回試しに付き合ってみる?」

「却下」


二度目の断りを入れると彼は「また振られた〜」と軽い冗談のようにケラケラと笑った。
彼の本気度が全く見えない。こんな状態で言葉を間に受けるわけにはいかない。



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