君のことは一ミリたりとも【完】
これ以上唐沢には弱みを見せるわけにはいかない。
彼を好きになることが、最大級の弱みになる。
「それに、私はまだ……」
先程シャワーをしているときに気が付いた気持ちが溢れ出して、しかしそれは他人に聞かせるものじゃないと口を閉ざした。
唐沢はその後に私が何を紡ごうとしていたのかに気が付いたのか、ふっと笑顔が消える。
「……そんなに好きなんだ、生瀬が」
「……」
「女の処理ぐらい、もっと上手くやれないものかね。こうやって無理に離れると相手の未練は濃く残る。どうしてそれを分かってあげられないのか」
「……唐沢は不倫に反対なんじゃないの?」
「反対も反対。不倫なんて馬鹿がすることだね。だから河田さん可哀想って思ってるよ」
可哀想だね、と私の頭を撫でようと手を伸ばした彼の腕を弾き飛ばす。
「なに、同情してんの?」
「同情するくらいなら嫌悪感を示してるくらいだよ」
「……」
「だけど、あの河田さんが不倫なんかするぐらいだから、その男には何か河田さんを惹きつけるなんかがあったんだろうね」
そう、あの人には他の人にない何かがあった。きっとそれは私の目には大きく映った。
騙されたとは思っていない。私と別れた後も彼は魅力的な人だと思う。それが未練がましいのだろうか。
「馬鹿な河田さん、依存する人を間違えたね」