クールな社長の溺甘プロポーズ



「ありがとうございました」



その言葉とともに深く礼をし、最後のお客様を見送った。

顔をあげればレジの時計は22時すぎを指していた。



やっと閉店時間……。

予算も大幅に達成し、なんとか今日を乗り切れたことに、安堵した。



「澤口さん、ありがとうございました。閉店作業は私やりますから、あがってください」

「本当ですか?じゃあお言葉に甘えてお先に失礼しようかな」


折角なら最後までとも思うけれど、閉店作業のやり方は私はわからないし……。

下手に手間をかけさせてしまうよりは、と思い店長の言葉に頷くと、荷物を持ちお店を出ようとする。

すると、閉店後のひと気のない建物で、店長はふたたび深く頭を下げた。



「本当にありがとうございました、助かりました。澤口さんみたいな方が本部にいてくださること、すごく頼もしいです」



それは、私の判断は仕事の上で間違っていなかった、と言ってくれている気がして嬉しい。

そんな彼女に、自然と笑みがこぼれた。



「ありがとうございます。明日からも頑張ってくださいね」



そして手を振り、ひとり駅へと向かった。



私は間違ってなかった。彼女ひとりをお店に残していたら、きっと後悔した。

そう、正しい判断。



……なのに。

何度言い聞かせても、胸が苦しい。

大倉さんとの約束を守れなかったことにも、後悔を感じている。



どうすれば、よかったのかな。



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