クールな社長の溺甘プロポーズ
「ちょ、ちょっと……澤口?」
すると、柳原チーフに名前を呼ばれてふと気づく。
見れば先ほどまで彼ひとりに向けられていたその場の人々の視線は、今では私にも向けられている。
まずい。このままここにいたら変な噂になりかねないし、とりあえず場所を変えよう。
「ちょっと来てください!」
そう考え、私は彼の腕をぐいっと引っ張りその場から逃げるように歩き出した。
早足でエントランスを抜け、奥にあるドアを押しひと気のない建物裏へ出る。
そして人目につきづらい細い通路にふたりきりになったところで、再度彼と向かい合った。
「どういうことですか!?説明してください!」
「どうもこうも、そのままの意味だ」
「だから、その『そのままの意味』がわからないから聞いてるんです!」
あぁもう、意味がわからないし話が進まない。
しらばっくれている、というよりかは『これ以上の説明がいるのか』とでも言いたげに、彼は首をかしげる。
「私はあなたの恋人でもなければ、あなたが誰かすらも知らないんですよ?どうしてどこの誰かも知らない人と結婚しなくちゃいけないんですか!」
爪の伸びた指先で、ビシッと彼を指差し問いただす。
そこまで言ってようやく質問の要点を把握したのか、彼は「あぁ」と納得した。
「どこの誰かと言われると、俺はこういう者だ」
そう言って彼が差し出すのは、一枚の名刺。
そこには【(株)オオクラ自動車 代表取締役社長 大倉佑】と書いてある。