ぎゅっと、隣で……　
　優一は、軽く息を整えると、小百合のマンションのインターホンを押した。


「優一？　入って」

　にこやかな、小百合が顔を覗かせた。


「いや、ここでいい」


「えっ」

　小百合の顔が一瞬にして曇った。


「ごめん、小百合……　もう、終わりにしたいんだ……」

　優一は、小百合から目を逸らさず、噛みしめるように言った。



「どういう事？　そんな事許される訳ないじゃない？　やっぱり、あの子が好きなの？」

　小百合の声は震えている。



「すまない……」

　優一は頭を深く下げた。



「私は絶対に嫌よ！　別れない！　私と結婚すれば取締役にだってなれるのよ……」

　小百合は、縋るように優一の胸に手を置いた。



「こんな事は言いたくないけど……　俺、一度でもお前と結婚するって言ったか？　取締役になりたいなんて言ったか？」



「そんな事……　当たり前だって思ってたのに……　こんな事、叔父様が知ったら、優一会社に居られなくなるわよ！　考え直して……」


　小百合の目には涙が溜っている。


　小百合は小百合のやり方で、愛を形にしょうとしていた事が今になって優一にも分かった。



「ごめん、小百合……　お前は俺が、出世の為に結婚する男だと思っているのか？　俺は、誰かの後ろ楯が無いと、仕事を認めてもらえない男なのか？」

　優一は、少し切なそうに小百合を見た。

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