ぎゅっと、隣で…… 
「本当の事よ。優一が私と結婚すれば、会社役員になれるんだから…… あんたは役に立たないから消えてって言ったわ! だって、その方が優一の為でしょ?」


「嘘だろ? 俺の為……」


 優一の顔が厳しく変わった。



「でも、何で優一が知っているの? まさか…… あの子が言ったの?」



「違うよ…… うちには何でも見ている婆ちゃんが居るからな……」


 優一の引きつった顔が一瞬だけ緩んだ。



「なるほどね…… そんなにあの子が好きなの?」


 小百合は力無く言った。



「ごめん……」



「ねぇ。一つ聞いていい?」



「なんだ?」



「一度でも、私を好きだと思って抱いた事がある?」


 小百合は、泣き笑いの顔を優一に向けた。



 悪いのは全部俺だ……



「ごめん……」

 優一は、深く頭を下げた。



「本当に正直なんだから…… 嘘でも好きだったって言って欲しかった……」



「ごめん……」


 頭を下げたまま、もう一度、心から謝った。



「もういいわよ…… 早く行きなさいよ! あの子、死にそうな顔してたわよ」



「まじかよ!」

 優一は、玄関を飛び出した。



「ばか…… 必至になっちゃって…… 勝手に幸せになればいい……」

 小百合の最後の言葉は、優一には聞こえなかった。
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