ぎゅっと、隣で…… 
「もう、言わなくても分かっているから……」

 南朋は、やっとの思いで言葉を口にすると、優一に背を向けた。



「姉ちゃん、一度くらい自分の持ちぶつけてみろよ。それから、いじけても遅くないと思うぜ」


 何よ、人をいじけ虫みたいに! 


 だけど、優一を目の前に、これ以上傷つく事も、自分の気持を知られる事も怖くて、南朋はこの場を逃げようと向きを変えた。


 優一が、家に戻ろうとした南朋の腕を掴んだ。


「離して……」


「…………」


 優一は何も言わず南朋の腕を引っ張って歩き出した。




「優一兄ちゃん!」

 翔の声に優一は振り向いた。




「俺の大事な姉ちゃんなんだから、もう、絶対に悲しい思いさせないでくれよ! ダウンと引き換えじゃないからな!」


「ああ。解ってる!」


 優一は翔の目を見て力強く言った。



「翔……」

 南朋は小さく呟いた。


 翔は同じ兄弟なのに、南朋とは全く違く性格だ。

 だけど、子供の頃から殻に閉じこもる南朋に、光をくれる存在だった。

 そして、今も……






「それと、婆ちゃん達が西金屋の羊羹食いたいって。一番高い奴な!」


「ああ、分かった」


 優一は軽くため息をついて言った。



「ちょっと、それって引き換えじゃん! やだよ―。離して!」


 騒ぐ南朋を、翔と婆ちゃん二人が小さく手を振って見送っていった。

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