星夜光、きみのメランコリー





「失礼します」

「おう、入れ」


放課後、バッチャンに呼ばれた通りに進路指導室に向かった。遠心力に任せて、ぐるんとあたしの方を向いたバッチャンは、たくさんの資料を机に並べていた。

…うう。本当に進路の話をしなきゃいけないのか。まだ2年生なのに。


「ほら、ここに座れ。進路調査票持ってきたか?」

「あ…ハイ。何も書いてないんですけど…」

「まぁすぐに書けるやつの方が少ないよ。それは心配しなくていいが、就職か進学かはどう考えてる?」

「え…と、なんとなく進学かなって…思ってました。本当になんとなくですけど」


就職は頭になかった。まだまだ自分が社会で働いていける自信もなかったし、きっとお父さんとお母さんが反対する。

だけど、何かを学びたいって思いも、まだないというのも事実。


「そうか。まぁお前の成績だったら大学も行けなくはないけどな。どういうことをしたいとか、興味あるとか、あるのか?」

「興味、」

「おう、なんでもいいよ。すきなことは、ある?」

「うーん…」


好きなこと。好きなことというより、気持ちがいいことは、色と対話すること。色とのやりとりのまま、絵を描くこと。感じること。

「お前のことだから、美術系に進むかと思ったんだが」

…バッチャンも同じことを思っている。でも、本当のあたしのことは知らないから、あたしがそっちの世界にだけは進まないことは知らないはずだ。


それとも、あたしのこと、知ってたりする?



「興味ないのか?美大とか」


…もう、絵は描かない。自由なもの以外、描かない。


「…美大に行くほど、才能ないですもん、あたし」


傷が痛む。昔の苦い思い出にわざとすがるほど、あたしは強くない。


< 132 / 140 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop