星夜光、きみのメランコリー
「そうか。ハシバ先生が、お前には美術の才能があるって、褒めてたんだけどな。もしお前が本気でそっちの方に進む気があるなら、受験か実技指導はきっちりやってくれるって言ってたぞ」
ハシバ先生は、美術の先生だ。某有名美術大学を出た人だから、実力は相当なものなんだと思う。
その先生にそう言ってもらえているのはありがたい。前に、授業でも褒めてもらえたし…。
「…あたしは、美術の方には、進まないと思います…」
ハシバ先生なら、わかってくれるんじゃないかと頭をよぎった。同じ絵を描く世界に生きた人間だとしたら、あたしの気持ちも、少しは分かってくれるんじゃないかって。
「…そうか」
バッチャンは、何かを言いたそうにしばらくあたしの方をじっと見ていたけど、「ん」と、手に持っていた進路調査票を返してくれた。
「とりあえず、今はまだなんとなくでいいから、大学とか分かる範囲で書いとけな。国立か公立か、県立か私立か。大学にも色々あるぞ」
「ハイ」
「…彩田」
「ハイ?」
「…お前はまだ若いんだから、色んな可能性を広げられるんだってことは、覚えとけよ。まだまだ、失敗したっていくらでもやり直せるんだからな」
「……、ハイ」
あたしの間抜けな返事に、また少し困った顔をされたけど、バッチャンはあたしを解放してくれた。
…色んな可能性。あたしに、そんなものはあるのだろうか。
大人はきっと、あたしたちよりも色々なことを経験してきているからこそ、そういうことを言うんだろう。
でも、今を生きているあたしたちからじゃ、イマイチ想像もできない。
人生を決めていくって、むずかしい。