星夜光、きみのメランコリー


「…何やってんの?」


彼女たちの指先が、手首に触れそうになる一歩手前で、低い声は響いた。


「あんまり親しくない人にそんな距離感って、ちょっと異常なんじゃない?」

「一色くん……!」

「角田さん、田嶋さん、まだ帰らないんだったら、戸締りお願いしたいんだけど。あ、あと体育の長田先生に倉庫の鍵を返しに行ってくれる?昨日の日直が返しそびれてめちゃくちゃ怒ってたけどね」

「エッ…。あ、ううん、うちらはもう帰るし。ごめんねっ」


体育の長田先生は、うちの学校でもいちばんこわい先生だ。特に放課後は、野球部の顧問として部活に参加しているから、その中話しかけにいくのは結構勇気がいること。その上、怒っているなんて、雷が落ちるの覚悟だ。

…千歳くん、日直か何かなのかな。


そそくさと帰り支度をするふたりを、千歳くんはじっと見ていた。そして、教室から出て行こうとするのを待っていたのか、そこですうっと息を吸った。


「言い忘れたんだけどさ、あんまこいつのこと、囲むのやめてくんない?そういうことしてる時の顔、一回鏡で見た方がいいよ」


千歳くんの力強い声が、頭の上を通っていく。そのあとすぐに、バタバタと忙しい足音も過ぎていった。

じわ…と、目の前が歪んでいく。


…千歳くん、助けてくれた。でも、どうして。

絵菜さんもいるのに。あたしのこと、無視したのに。こういうこと言うの、ずるい。



< 136 / 140 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop