星夜光、きみのメランコリー
「にーびー?」
鉛筆のてっぺんに書いてある文字を読んだ。白い紙にそれを滑らせようとしていた一色くんは、呟いたあたしをじろりと見る。
「一色くん、絵描くの?」
「それさ、さっきも聞いたよね」
「だって、気になって」
一色くんは、質問に答えてくれない。一色くんの膝のあたりに肘をついて、寝転んだまま彼の動かす鉛筆を見つめた。
何も言わないで、シャッシャッと滑るように色を加えていく彼の指先は、まるで魔法使いのようだ。
目、口、鼻。 睫毛、瞳、眉毛、くちびる。
次々と描かれていくそれらは、初めて会ったとは思えないほど見慣れたものばかり。
…そりゃそうだ。だってこれ、今一色くんのスケッチブックを見つめている、あたしだ。
「すごい!!あたしだね!!」
「…」
「可愛い!!」
「ナルシスト」
鏡で見たことあるものばかり。あまり好きじゃない眉毛も、しっかりそのまま描かれている。くそう。ちゃんと見られてる証拠だな。
それにしても、すごいや。一色くん、本当に絵を描く人だった。鉛筆1本で、あっという間にもう1人のあたしをつくりあげてしまった。
「一色くんって美術部なの?」
まだスッと目を下に向けて手を動かす彼に質問。「動くなよ」とすぐに怒られてしまったけど、そのあとにちゃんと「ちがうよ」と答えてくれた。
「美術部なんて、ねーじゃん。うちの学校」
「あー、そうだった。一昨年くらいに廃部になったんだっけ」
高校で美術部が廃部になるなんて、なかなかないだろうに。よっぽど、絵に興味がある人たちが少なかったんだと思う。
…こんなに、素敵な絵を描ける人だっているのに。他にも、絶対いるはずなのに。