星夜光、きみのメランコリー
少ししゅんとしていたら、千種のひんやりとした手が頭の上に乗っかった。ごめんねって、伝わってくる。
「…うそ。天香といるの、楽しいよ」
やさしい手。また気を遣わせてしまった。あたしが、暴走してしまったから。
一度自分の世界に入り込むと、周りが見えなくなってしまう。意識すると、出てこられなくなってしまう。
昔から、あたしの世界は、ふたつあるみたいだ。
「じゃあ、部活行ってくるね。気をつけて帰りなよ」
「うん、ありがとう。頑張ってね」
千種の手が離れていく。白いスポーツバッグを揺らしながら、彼女は目の前からいなくなった。
教室に1人。帰る準備をしていると、黒い鞄から、1冊の本が見えた。
「…あ。図書室の本、今日までだった」
2週間前に、図書室で見つけた新刊。誰よりも早く読みたくて借りたものだ。
思っていたラストと違って、なんとなく消化しきれず鞄に入れたままになっていた。
本は好き。自分とは別の世界に入り込むことができるから。それに、自分の世界とも切り離すことができるから。
…これから図書室行けば、まだ図書委員の人がいるかも。明日になると期限過ぎちゃうし、これから行くか。
少しめんどくさいと思いつつも、仕方がないので向かうことにした。
教室に差し込む太陽の光は、いつの間にか全体的にオレンジに染まっていた。溢れるような色たちに、また吸い込まれそうになる。
気を抜けば、また気になってしまう。聞こえてしまう。だから、早いうちに行かないと。
教室のカーテンを閉めて、本と鞄を持って図書室へ向かった。