星夜光、きみのメランコリー
左手の指を、シャープペンと一緒に動かしてみせる。
「…両利きなんだ、あたし」
「両利き? 器用だね」
「でしょう」
絵でも何でもない、“ 彩田 天香 ” と書いてみせた。それを見た一色くんは、「本当だ」と薄く笑った。
もう、文字も慣れっこだ。
「両利きって生まれ持った力だと思ってるんだよね、俺」
一色くんは、左腕に体重を乗せたまま退屈そうに鉛筆を走らせた。シャッシャッと書いていく線は、この間みたいに生き物を作り上げていく。
ただの線に、命が吹き込まれていく瞬間。
一色くんが描いていたのは、あたしの手だ。左手に、細いシャープペンを握っている。
…すごい。やっぱり、ただの絵になんかならない。一色くんは、本物と同じように作品を作り上げる。
落書きの落書きって言ったのは、彼なのに。
「なんかさ、彩田さんが両利きって聞いて、納得した」
「…納得?」
「そう。そーいう特別なものを、彩田さんは持ってそうだなって思ってた」
一色くんの長い睫毛が揺れた。その奥にある瞳は、太陽の光が入り込んで、また新しい色が生まれていた。
…「特別なもの」。
そんな風に言われて、なんとも思わないわけがない。嬉しいけど。残念ながら、そんなに大層なものじゃない。決して、特別なものなんかじゃない。
「…一色くんの言う“ トクベツ ” は、実はツクリモノなんだあ」
なんとなく、手を動かした。たまたま視界に入っていた、彼の綺麗な目を描いてみたいと思った。
切れ長の二重。ヘーゼル色。長い睫毛。
それらを、一色くんのようにひとつの生き物にしたくて、見よう見まねで描いた。
…久しぶりに描いたよ。
人の顔なんて。