星夜光、きみのメランコリー
ほんの少し前までは、目の前で動いている人を、こんな風に描いたことがあったっけ。
「……ちょっと待って。彩田さん、絵描けるわけ?」
一色くんの目に光を加えていると、彼の大きな手があたしの左手を包んだ。
動いていたそれを、一瞬で止められる。
「…昔描いてただけ。ていうか、中学の頃、美術部で」
「…美術部?」
「そう」
うちの高校には美術部がない。だから、もう絵と向き合うことなんてないと思っていたんだけど。
まさか、一色くんみたいな人と出会っちゃうなんてなあ。
「早く教えてよ。俺今すごいびっくりしてるんだけど」
「えっ? でももう、辞めちゃったし」
「そーいう問題じゃなくない?」
また、呆れた顔。何度目か分からないそれに、ついに吹き出してしまった。「なんだよ」と怒っている彼に、ううんと首を横に振る。
美術部はやめた。絵を描くことも減った。
それに、あたしは好きで描いていただけだ。一色くんとは違う。才能もない。
彼が白と黒とで表現しているのに対して、あたしは色に頼って好きに描いてきたから。
「あたしは、色と会話できればそれでよかったの」
——色に心が見える。
そんな感覚を生まれながらに持っていたあたしは、とにかく新しい命を生むことが楽しくて仕方なかった。
存在する色もすき。だけど、自分が作り出した色はもっとすき。
あたしが当たり前だと思っていた世界は、普通の人たちにとっては当たり前ではなかったから、その代わりに自分だけですきに楽しんでいた。
そのために絵を描いていた。それだけだ。