星夜光、きみのメランコリー
何も持っていない右手が、じんと痺れた。それと同時に、昔を思い出してぎゅっと疼く。
…この手で、自由に色を生み出していた頃を思い出した。
「それよりさ、さっき言ってた、両利きが “ ツクリモノ ” って、どーいうこと? トクベツじゃないって」
……ああ。さっき、そんな話をしようとしていたんだっけ。
一色くんが、あたしの落書きに反応してたから、見失っていた。別に、聞き流してくれてもよかったんだけれど。
「そのまんまの意味だよ。右手だけじゃ足りなくなったから、訓練して左も使えるようにしたんだ」
なんとなく、彼の方は見れなかった。その代わりに、描いていた絵の方を見る。自分から持ち出した話題なのに、失礼だなあと思う。
「…訓練? なんでわざわざ?」
「うーん…。右手だけじゃ足りなくて」
「足りない?」
「うん」
シャツの袖口から、痛々しく残っている傷口の先が顔を出している。夏はリストバンドをしていることもあるけど、今はまだ長袖で我慢できるから、今日は丸出しだ。
…あんまり見せたくないけど、いいや。隠しているわけじゃないし。
「ちょっと前にね、けがで手術をしたんだあ。その時の後遺症で、右手があまり上手に使えなくて」
「…けが?」
「うん、そう」
にへら、と笑ってみせた。シャーペンを置いて、トンと指先を右手首に這わせると、それを見ていた一色くんの眉毛が少し上がった。
「この間もけがしてたとこじゃん」
…この間。星野光を見ていた夜のことだ。
「そうそう。もう信じられないよね。あたしの右腕はブラックホールか何かなのかもしれない!同じとこばっかけがするんだ」
「それ、全然笑えなくない? つーか例えがよく分かんねーし」
今度は、右手首を掴まれた。親指で、くいっと袖口をほんの少しめくられた。
ふーんと呟きながら、じっと見られる。