星夜光、きみのメランコリー


「一色くんってさあ、よく触るよね」

「変態だとでも?」

「うん、ちょっとだけ」


こんなに女の子の手首を触るって、普通のことなのだろうか。それとも、一色くんはそーいうのに慣れてたり…するのかな。


「男との距離感を掴めてないお前に言われたくない、そーいうこと」

「えっ!? あたしだって一色くんには言われたくないよ!」

「俺は誰にでもこんなことしたりしねーから。変態扱いしてんじゃねーよ」


ビシッと、またおでこを叩かれた。痛い。だけど、ほんの少し、心が動いた。

…誰にでもはしない。でも、あたしにはする。

それは、ちょっと嬉しくなっちゃったりしたも、いいのだろうか。


王子のほんの少しの特別。ただの自惚れかもしれないけど。というか、多分、一色くんは何も考えていないんだろうけど。



「ま、いーよ。色々聞いて悪かったな」

「ううん、別に。気にしてないし」


王子と、こんな風に何気なく話せる日がくるなんて思ってもみなかった。

あの日、星野光を見に行ってよかった。

彼に会えなかったら、こんな風に自分を出して話すこともなかった。それを聞いてもらえることもなかった。


一色くんが、鉛筆をとる。何ごともなかったように、となりのページにさらさらと絵を描き始めた。


相変わらずの白黒の世界。だけど、その中で生きている彼の絵。


彼の指先が生むのは、ひとりの男性。あっという間に出来上がっていくそれは、どこかで見たことのある顔。


…誰だっけ。 かっこいい。 最近見た、若手俳優さんだろうか。


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