きみだけに、この歌を歌うよ




「ちょっ……愁っ?」



愁の胸板に頬が当たって、びっくりして顔をはっとあげると。

次の瞬間にはもう、私は唇を塞がれていた。

柔らかい唇の感触。

何度も何度も角度を変えては、深く、甘いキスが落とされる。

唇が離れた一瞬の隙間からもれる愁の吐息は熱かった。



「んっ……しゅっ…」



話そうとしても口を塞がれて、愁の名前を呼ぶことですらできなくて。

ドンドン、と愁の胸を両手で叩くと、私の腰に回っていた両手が離れて、密着していた身体も離された。



「……ごめん、菜々。どうしても我慢できなくて…。嫌だった……?」



申し訳なさそうな顔。

不安そうな声だった。



< 453 / 545 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop