婚活女子とイケメン男子の化学反応
~鈴乃side~
あれから7カ月の月日が経ち、私は臨月を迎えていた。
今は仕事もお休みして、家でゆっくりと過ごさせて貰っているのだけど、零士さんは私が心配なようで毎日電話をよこしてくる。
『もしもし鈴乃? 大丈夫? 何か変わったことないか?』
「うん。何もないよ」
『ほんとに? 陣痛とかもきてない?』
「うん。本当に何ともないから」
『そっか。それならいいんだけど。じゃあ、またあとで電話するな』
と、こんな感じの電話を一日に何度もかけてくるのだ。これじゃ、零士さんだって仕事に集中できないだろう。
「ねえ、零士さん、予定日まではまだ二週間近くもあるんだし、今日はもう電話しなくても大丈夫だよ。私もこれから散歩に出かけるつもりだし」
『えっ、散歩に行くの!?』
「うん。病院の先生にも少し歩いた方がいいって言われたから、桜公園まで行ってこようかなって」
『そうか。じゃあ、お袋に頼んで一緒に行ってもらいなよ』
「いいよ、お義母さんだって忙しいだろうし、私なら………」
『ひとりで大丈夫』と言いたかったのだけど、体に異変を感じて言葉を止めた。
なんだろう?
何か足に生温かいものが流れている。
もしかして!?
『鈴乃? どうかしたのか!?』
「れ、零士さん、どうしよう。私、破水しちゃったみたい」
まさかの事態に声が震える。
こういう時ってどうするんだっけ?
パニックで頭の中が真っ白になってしまった。
『鈴乃、今から言うことよく聞いて』
零士さんの声でハッと我に返る。
『俺が20分で迎えに行く。それまでは清潔なタオルを当てて安静にして待ってて欲しい。動きまわったりシャワー浴びたりとかは絶対にしないこと。破水してもお腹の子は大丈夫なはずだから、とにかく落ち着いて俺が着くまで待ってるように。分かった?』
「わ、分かった」
零士さんの言葉で何とか落ち着きを取り戻した私。
普段は心配症の零士さんだけど、こうして肝心な時は冷静で的確な判断をしてくれるから心強い。
恐らくこういう事態を想定して事前に勉強しておいてくれたのだろう。私よりも4つも年下なのに本当に頼りになるできた旦那様だ。
よし、いよいよ出産だ。
“待っててね。ママ頑張るからね!”
私はお腹に手を当てながら、大きく深呼吸した。
………
こうして私は、その夜元気な赤ちゃんを出産した。
2800グラムの女の子。
想像を絶する痛みだったけれど、我が子の泣き声を聞いた瞬間、喜びと感動で苦しかった記憶なんて吹き飛んでいた。
名前は私の希望で、楓(かえで)と名付けさせてもらった。昔から憧れていた名前だったから。
零士さんも気に入ってくれたようで、紅葉して真っ赤に染まるところは恥ずかしがり屋の鈴乃みたいだねと笑っていた。
スヤスヤ眠る我が子の顔を幸せな気持ちで眺めていると、看護師さんが病室にやって来て零士さんに尋ねた。
「旦那様もご一緒にお泊まりになるんでしたよね?」と。
「はい。妻の入院中はここから会社に通う予定です」
隣で答えた零士さんに私は思わず聞き返す。
「え、そうなの? でも、ここ、産婦人科だし男の人が泊まるのはマズいんじゃないの?」
確かに個室だし予備のベッドもあるのだけど。
「それは大丈夫ですよ。ここはファミリータイプの個室ですし、一般の病室とはフロアも違いますので」
零士さんの代わりに看護師さんがそう答えた。
「そうですか」
ホッとする私に零士さんが笑いながら言う。
「俺がいないと夜中の授乳とか困るだろ? だから、わざわざこの個室を選んだんだよ」
「え? どういう意味? どうして困るの?」
「だって、鈴乃起きれないじゃん」
「そんな訳ないでしょ。私だってちゃんと起きるよ。母親なんだから」
いくら私がロングスリーパーだからって、さすがに我が子が泣くのを放って眠り続ける訳がない。
けれど零士さんは首を振る。
「いや、3時間置きなんて鈴乃にはムリだろ? でも大丈夫だよ。俺が代わりにオムツ替えて、鈴乃のおっぱい吸わしといてあげるからな。心配しなくていいぞ」
そんな零士さんの発言に看護師さんも目を丸くして驚いていた。
ちょっと、なんて事言うの、零士さん!
私は恥ずかしさで言葉を失う。
「すごく協力的な旦那様でよかったですね。では、私はこれで」
看護師さんはにっこり笑いながら部屋を出て行った。
ああ、きっとこの看護師さん、ナースステーションに帰ったら今のことを喋ってしまうんだろうな。
も~。
夫に夜中の授乳をやらせる母親なんてあり得ないでしょ!
私は深いため息をつきながら、恨めし気持ちで零士さんの顔を睨んだのだった。
あれから7カ月の月日が経ち、私は臨月を迎えていた。
今は仕事もお休みして、家でゆっくりと過ごさせて貰っているのだけど、零士さんは私が心配なようで毎日電話をよこしてくる。
『もしもし鈴乃? 大丈夫? 何か変わったことないか?』
「うん。何もないよ」
『ほんとに? 陣痛とかもきてない?』
「うん。本当に何ともないから」
『そっか。それならいいんだけど。じゃあ、またあとで電話するな』
と、こんな感じの電話を一日に何度もかけてくるのだ。これじゃ、零士さんだって仕事に集中できないだろう。
「ねえ、零士さん、予定日まではまだ二週間近くもあるんだし、今日はもう電話しなくても大丈夫だよ。私もこれから散歩に出かけるつもりだし」
『えっ、散歩に行くの!?』
「うん。病院の先生にも少し歩いた方がいいって言われたから、桜公園まで行ってこようかなって」
『そうか。じゃあ、お袋に頼んで一緒に行ってもらいなよ』
「いいよ、お義母さんだって忙しいだろうし、私なら………」
『ひとりで大丈夫』と言いたかったのだけど、体に異変を感じて言葉を止めた。
なんだろう?
何か足に生温かいものが流れている。
もしかして!?
『鈴乃? どうかしたのか!?』
「れ、零士さん、どうしよう。私、破水しちゃったみたい」
まさかの事態に声が震える。
こういう時ってどうするんだっけ?
パニックで頭の中が真っ白になってしまった。
『鈴乃、今から言うことよく聞いて』
零士さんの声でハッと我に返る。
『俺が20分で迎えに行く。それまでは清潔なタオルを当てて安静にして待ってて欲しい。動きまわったりシャワー浴びたりとかは絶対にしないこと。破水してもお腹の子は大丈夫なはずだから、とにかく落ち着いて俺が着くまで待ってるように。分かった?』
「わ、分かった」
零士さんの言葉で何とか落ち着きを取り戻した私。
普段は心配症の零士さんだけど、こうして肝心な時は冷静で的確な判断をしてくれるから心強い。
恐らくこういう事態を想定して事前に勉強しておいてくれたのだろう。私よりも4つも年下なのに本当に頼りになるできた旦那様だ。
よし、いよいよ出産だ。
“待っててね。ママ頑張るからね!”
私はお腹に手を当てながら、大きく深呼吸した。
………
こうして私は、その夜元気な赤ちゃんを出産した。
2800グラムの女の子。
想像を絶する痛みだったけれど、我が子の泣き声を聞いた瞬間、喜びと感動で苦しかった記憶なんて吹き飛んでいた。
名前は私の希望で、楓(かえで)と名付けさせてもらった。昔から憧れていた名前だったから。
零士さんも気に入ってくれたようで、紅葉して真っ赤に染まるところは恥ずかしがり屋の鈴乃みたいだねと笑っていた。
スヤスヤ眠る我が子の顔を幸せな気持ちで眺めていると、看護師さんが病室にやって来て零士さんに尋ねた。
「旦那様もご一緒にお泊まりになるんでしたよね?」と。
「はい。妻の入院中はここから会社に通う予定です」
隣で答えた零士さんに私は思わず聞き返す。
「え、そうなの? でも、ここ、産婦人科だし男の人が泊まるのはマズいんじゃないの?」
確かに個室だし予備のベッドもあるのだけど。
「それは大丈夫ですよ。ここはファミリータイプの個室ですし、一般の病室とはフロアも違いますので」
零士さんの代わりに看護師さんがそう答えた。
「そうですか」
ホッとする私に零士さんが笑いながら言う。
「俺がいないと夜中の授乳とか困るだろ? だから、わざわざこの個室を選んだんだよ」
「え? どういう意味? どうして困るの?」
「だって、鈴乃起きれないじゃん」
「そんな訳ないでしょ。私だってちゃんと起きるよ。母親なんだから」
いくら私がロングスリーパーだからって、さすがに我が子が泣くのを放って眠り続ける訳がない。
けれど零士さんは首を振る。
「いや、3時間置きなんて鈴乃にはムリだろ? でも大丈夫だよ。俺が代わりにオムツ替えて、鈴乃のおっぱい吸わしといてあげるからな。心配しなくていいぞ」
そんな零士さんの発言に看護師さんも目を丸くして驚いていた。
ちょっと、なんて事言うの、零士さん!
私は恥ずかしさで言葉を失う。
「すごく協力的な旦那様でよかったですね。では、私はこれで」
看護師さんはにっこり笑いながら部屋を出て行った。
ああ、きっとこの看護師さん、ナースステーションに帰ったら今のことを喋ってしまうんだろうな。
も~。
夫に夜中の授乳をやらせる母親なんてあり得ないでしょ!
私は深いため息をつきながら、恨めし気持ちで零士さんの顔を睨んだのだった。