俺様社長に甘く奪われました

「い、いえ、起きていましたけど……」
『ならよかった。今、前にいるんだ』
「……前、ですか?」


 まさかと直感した次の瞬間、『莉々子のアパートの前だ』との返答が耳に届けられた。


「わ、私のアパートの前ですか!?」


 莉々子がつい素っ頓狂な声を上げるのも無理はないだろう。友人ならまだしも、相手は勤め先の社長。突然電話を掛けてきて、すぐそこまで来ていると言われて混乱しないわけがない。


『部屋は何号室だ』


 混乱の弾みで「二〇四です」と莉々子は思いがけず答えてしまった。


『わかった』
「え、あの!」

 引き留めようとしたときには、すでに通話は切れていた。

(ぼんやりしている場合じゃない……!)

 アパートの前からこの部屋までは、階段を使って一分程度。慌てて立ち上がり、脱いでそのままにしてあったパジャマを布団の中へ、ソファに乱雑に置いてあった雑誌や本をクローゼットに押し込む。テーブルに散らかっていたコスメの類は、すぐそばにあったコンビニの袋に投げ入れた。

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