俺様社長に甘く奪われました
障子が開けられ、莉々子は息を飲んで目の前の光景をなんとか気丈に見据える。右手には、社内報の写真でしか見たことのない朝菱商事の社長である東条と、おそらく望月の母親、左手には綺麗な見合い相手とその両親が座っていた。
当然のことながら、十個の瞳が一斉に莉々子へと向けられる。もちろん好意的と呼べるものではない。
「奏多、そちらは?」
東条が不快感たっぷりの声で彼に尋ねる。これ以上の低いトーンを聞いたことがないほどの重低音だ。白髪交じりの豊富な髪を七三分けにし、莉々子が写真で知っている穏やかな顔を険しくさせ、眉を歪ませていた。
そこからおずおずと視線をずらしてみれば、隣に座る望月の母、百合は、おそらく五十代は過ぎているだろうに三十代後半でも通じてしまうくらいに若々しい。薄紅色の着物を着て長い髪をアップにしており、色白で優しそうな顔立ちの美人だ。
「こちらは倉木莉々子さんです」
「朝菱ソリューション総務部の倉木莉々子と申します」
望月に続いて自己紹介をして、頭を下げ過ぎと思うほどに腰を折った。