俺様社長に甘く奪われました
二年半も経っているうえ、こんなところで会う偶然があるとは思いもしなかったからだ。会ったのは、たった一度。その顔がいつしか記憶の中で形を変えている可能性もある。世の中には似た人間が三人は存在しているというから、面影が似ているだけということもあるだろう。
ところがそう打ち消していた矢先、奏多の耳に思わぬ声が飛び込んだ。
「莉々子、行こう」
“りりこ”と、確かにそう聞こえたのだ。そう呼ばれた彼女は、同僚とともに奏多からどんどん遠ざかっていく。あの夜、出会った彼女に間違いない。奏多は確信した。
二年半前のある夜。恋人に振られて泣きじゃくる彼女の横顔があまりにも美しく、一瞬で奏多の心は奪われてしまったのだ。傷ついた見ず知らずの彼女を慰め、朝まで一緒に過ごしたときのことが一気に蘇る。あのときの彼女の唇の感触も、素肌の温もりも、未だに色褪せていないことを実感した。
奏多の腕の中で小さく肩を震わせて泣く姿、キスに必死に応える姿、すべてが愛しかった。会ってすぐの彼女を手離したくないとまで。なにがそこまで思わせるのかは、奏多自身にもわからなかった。
目覚めたときにひとりだったことを、あれほど寂しいと感じた朝はない。