俺様社長に甘く奪われました
いつもは秘書の上田から依頼されることを望月から直で頼まれるのは初めてのことだった。
「はい。かしこまりました」
「それじゃ、俺は先に総務部に戻っていますね」
松永は脚立などの荷物をすべてひとりで持ち、エレベーターへと向かった。
莉々子はそこで、自分がメモ帳も筆記用具も持っていないことに気づき、「少々お待ちください」と言い置いて社長室を飛び出す。
「あ、おい!」
望月に呼び止められたような気がしたが、それよりも迅速対応が肝心だと、その声を振り切る。大慌てで総務部から戻ると、望月は悠然と座っていた。
「総務部まで戻ったのか」
「はい、メモなどを持ち合わせていなかったので」
そう言って持ってきたものを望月に見せる。
「そのくらいここにだってある」
「はい……。ですが、社長室のものをお借りするのは気が引けてしまって」