俺様社長に甘く奪われました

 気安く『貸してください』とは、とてもじゃないが言えない。


「あの、それで航空券はどちら行きを手配すればよろしいでしょうか?」


 メモ帳を広げペンを手にしながら望月のデスクへと歩み寄る。


「上海行き」


 中国は現在、日系企業向けの工業団地の分譲を朝ソリが推し進めている段階だ。それは、並みいる競合企業を押しのけ、望月の手腕で勝ち取った事業でもある。社長になって四年、朝ソリの目覚ましい成長は望月の功績によるものが大きい。

 莉々子が早速メモをとろうとしたところで、ボールペンがなぜか書けない。インクが切れてしまったのか、かすれるどころかまったく書けないのだ。


「……あ、あれ?」


 メモ帳にぐるぐると円を描いてみるが、筆跡の痕がつくだけ。


「どうした」
「申し訳ありません。ペンが出なくて……」

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