俺様社長に甘く奪われました

 その背中を見ていた視界の隅で、男性が立ち止まったことに莉々子が気づく。


「……莉々子か?」


 その声に莉々子の心臓がドクンと飛び跳ねた。
 ゆっくりとした足取りで近づいてきた彼が目を見開く。


「やっぱり莉々子じゃないか」


 相沢祥真(あいざわ しょうま)、莉々子の元彼だったのだ。耳にかかるほどの長さだった髪の毛はサイドを短く刈り上げてすっきりとした印象になっていたものの、優しい目元は変わらなかった。


「……どうしてここに?」
「どうしてって、アビーの社長だから」
「嘘……」


 顔をしかめた莉々子に、祥真が名刺をそっと差し出す。
 そこには確かに“株式会社アビー 代表取締役社長 相沢祥真”とあった。
 祥真がグループ会社を多く抱える大企業の御曹司だとは知っていた。ただそれがアビーの社長だとは知る由もない。

(もしも祥真に会うことがあるならば、幸せな顔をして笑ってやろうと思っていたのに。あなたのことなんか、私だって好きじゃなかったって言ってやろうと思っていたのに……)

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