俺様社長に甘く奪われました

「あ、あのっ……」
「汚れてる」


 さきほど松永とドライバーのやり取りをしたときに、埃が頬に付いてしまったのかもしれない。

 思わず身じろぎをして顔を遠ざけようとすると、「動くな」と望月が鋭く睨む。
 そんな目で凄まれれば、嫌でも動けなくなる。全身が硬直して金縛りにでもあったようだった。やけに真剣な眼差しで顔の汚れを望月が拭うものだから、申し訳ないのと恥ずかしいのとで莉々子の鼓動が速くなる。


「……も、申し訳ありません。ありがとうございます……。では、航空券の手配が完了次第、秘書室の上田さんにご連絡いたしますので」


 ボソボソとお礼を言って、莉々子が借りていたペンをデスクに置こうとすると、その手を望月が遮った。


「気に入ったのなら使うといい」
「いえっ、そういうわけには……」


(そんなに物ほしそうに見えちゃったのかな。そんなつもりはなかったのだけど……)


「替えがあるから遠慮するな」
「ですが」
「俺がいいと言っているんだから、素直に受け取れ」


 そこまで言われて拒絶することもできない。


「ありがとうございます」


 莉々子は遠慮しながらもボールペンを自分の手元に戻し、「では、失礼いたします」と社長室をあとにした。

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