俺様社長に甘く奪われました

少なくとも彼女は運命の出会いだと信じて疑わなかった。就職祝いで両親からプレゼントされたネックレスを海で失くし、それを見つけてくれたのか彼だったのだ。
 おそらく会ったときから莉々子は彼に惹かれていたのだろう。なにしろ背は高いし、顔は俳優かと見まがうイケメン。その上、四つ年上ということもあって包容力まである。その日のうちにダメ元で告白したところ、まさかのオッケーをもらったのだ。これはあとで知ったことだが、彼は大手グループ企業の御曹司だった。

 それから一年半、何事もなく付き合いが続いていたはずが、ある日突然、『最初からそれほど好きでもなかった』という耳を疑う言葉とともに振られてしまった。それならどうして一年半も付き合ったのか。一ヶ月、二ヶ月の付き合いならわかる。たまたまフリーだったし、そのうち好きになるかもしれないと思い、とりあえず莉々子を彼女にしたというのなら。それがどうして一年半も引っ張ったのか。

 そんなひどい振られ方をしたおかげで莉々子は恋愛に臆病になり、それからずっと彼氏もいない。莉々子がお金持ちのイケメンを遠ざける理由はそこにあったのだ。

 実はその元彼との別れ話の中で、真紀にも話せずにいることが莉々子にはひとつある。それは、振られた現場にあの望月が居合わせたことだった。望月は、泣きじゃくる莉々子がどこの誰かもわからないまま、マンションへ連れ帰り、彼女の気が済むまで泣かせてくれ、そのあとは……。

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