俺様社長に甘く奪われました
「ちょっとごめんね」
ふたりに断り、その場で応答をタップする。
『莉々子、何事もないか?』
この頃お決まりの電話での奏多の第一声に、「はい、大丈夫です」と返す。
「取締役会は終わったんですか?」
『ああ。これから予定どおり田崎弁護士と会う。沢田さんと一緒にいるんだよな?』
「はい、報告してあったとおりに真紀とアンゴラにいます。あ、それから志乃さんも」
『そうか。くれぐれも気をつけるんだぞ。こっちもそれほど時間はかからないだろうから、終わり次第連絡する。迎えに行くから、それまで彼女と一緒にいてくれ』
奏多が少し心配しすぎのように感じてしまうのは、あれからなにもないことで莉々子の気が緩んでいるせいかもしれない。
(脅してきた人も、もう気が済んだんじゃないのかな。スクランブル交差点で私の背中を押して、あわや轢かれかけたことで、大変なことをしてしまったと悔やんでいるかもしれない)
そんなことを考えながら彼との通話を切ると、志乃が驚いたような顔をして莉々子を見ていた。