俺様社長に甘く奪われました

「ごめん、莉々子。お父さんが怪我したらしくて、病院に運ばれたみたいなの」
「それなら早く行ってあげて」
「でも……」


 莉々子を置いて帰ることが心配なのだろう。


「私なら大丈夫。志乃さんもいるし」


 脅されているという事情を知らない志乃も「早く行ってあげなさい」と真紀を急かす。


「そう? ……本当にごめん!」


 真紀は莉々子と志乃の顔を交互に見て、両手を合わせて頭を下げた。


 慌てて帰る真紀を見送り、会計を済ませた志乃とアンゴラを出る。

 季節は間もなく夏。あとは梅雨明けを待つばかり。アンゴラに入るまで降っていた雨は上がり、雲の切れ目から半月が顔を覗かせていた。莉々子は、志乃と並んで歩きだす。


「さすがにジメッとしていますね」


 雨上がりだから余計なのかもしれない。

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