俺様社長に甘く奪われました

 すぐには信じがたいことが志乃の口からこぼれる。


「……あの、志乃さん……?」
「ねぇ、莉々ちゃん、どうしてなの? どうして私から彼を奪うの」


 志乃が莉々子の腕を掴んだ。その手には思いのほか強い力が込められていて、振り払おうにもできない。
 横目に見ながら、通行人たちが莉々子たちを避けていく。


「ねぇ、答えて。どうして? せっかく別れたと思ったのに、なんでよりを戻したの。そんなのずるいわよ……」
「……志乃さん、離して……ください……」


 じりじりと絞めつけられる腕があまりにも痛くてお願いするものの、莉々子の声が聞こえないのか、かえって強まっていく。


「莉々ちゃん、ずるい……」


 あまりの痛みに歯を食いしばり堪えていると、「莉々子!」と彼女を呼ぶ声がざわめく街角に大きく響いた。反射的に振り返った先に莉々子が見たのは、走り寄ってくる奏多の姿だった。顔を強張らせ、一心にこちらを見つめる。


(奏多さん……!)

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