俺様社長に甘く奪われました

 弁護士に肩を支えられながらタクシーに乗り込み、志乃が車とともに走り去る。奏多によると暴行罪に問われるらしく、これから警察に連れていかれるという。

 そのタクシーのテールランプが見えなくなっても、莉々子はしばらくそこから目を逸らせなかった。


「莉々子」


 奏多に名前を呼ばれて意識が舞い戻る。


「……でも、どうして奏多さんがここに?」
「莉々子が電話に出ないからだ」


(え? 奏多さんから電話が……?)

 少し苛立ったように奏多に言われ、まだ放心した状態のままバッグのスマホを探る。すると確かに彼からの着信が入っていた。マナーモードにしていたから気づかなかったのかもしれない。


「鎌田志乃と一緒にいると言っていたから、焦って沢田さんに連絡を入れたら、彼女とふたりを残して帰ったと言うじゃないか。急いで店に行ってみれば、すでに帰ったあと。慌てて探していたところだったんだ」
「……ごめんなさい」


 こんなにも身近な人間、それも志乃が脅迫文の送り主だとは想像もできなかった。未だに莉々子の頭は混乱し、その事実も信じられない。


「とにかく、莉々子が無事でよかった。もうこれでなにも心配することはないから」


 奏多は大きく息を吐き出し、莉々子を強く抱き締めた。

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