俺様社長に甘く奪われました

◇◇◇

 翌週の月曜日。木村が密やかな様子で莉々子をミーティングルームへと呼びつけた。


「昨日、鎌田さんの親御さんから連絡をもらいまして……」


 重い口をやっとの思いで開くようにして木村が話し始める。警察に拘留中の志乃に代わって、両親が木村に電話を掛けたのだろう。


「莉々子ちゃん、大変なことになっていたんですね。いや、私もまだ状況をよく理解できなくてね……」


 そう言いつつ木村が頭を掻く。困り果てた様子は手に取るようにわかった。


「ご迷惑とご心配をお掛けして申し訳ありません」


 莉々子にはそう言うよりほかにない。
 自分が奏多と付き合わなければ、志乃がこのような暴挙に出ることはなかっただろうと思うと心苦しい。高校生のときから片想いしていた奏多と莉々子の距離が縮まっていくのを、どのような思いで見ていただろうか。そう考えると、犯人が捕まって嬉しいというよりは、志乃に対して申し訳ない気持ちのほうが大きい。慕っていただけに複雑な思いでいっぱいだった。


「いえいえ、莉々子ちゃんが謝ることではありません。ただ、なにしろ社長にも関係することが警察沙汰になってしまいましたので、社内に広まるのも時間の問題でしょう。莉々子ちゃんも好奇の目で見られることがあるかもしれません。いろいろ大変でしょうが、あまり落ち込んだり深く考えたりすることのないようにしてくださいね」


 木村はミーティングルームを出るときに莉々子の肩をトントンと優しく叩き、元気づけるようにしてから先に総務部へと戻った。

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