俺様社長に甘く奪われました

◇◇◇

 それから一週間と経たないうちに、志乃のことは社内に広まり、当然ながら奏多と莉々子の関係も知れ渡ることとなった。
 見た目からは想像のつかない志乃の行動に驚くよりも、朝ソリの社長と庶民OLという取り合わせのほうにインパクトがあったらしく、莉々子は数えきれないくらいに「本当に社長と付き合ってるの?」と聞かれるはめになった。女子社員の嘆きは相当のものだったのだ。

 ただ総務部の中は、そんな喧噪とはかけ離れた空気が流れている。それはおそらく、志乃が大切な仲間だったせいだろう。怖い思いも辛い思いもしたが、莉々子は志乃を心から恨む気にはなれない。普段はノリの軽い松永ですら、おもしろがって話題にすることもなかった。


「莉々子さん、今さらなことを言ってもいいですかね?」


 妙に神妙な顔つきの松永が、向かいのパソコンの横から顔を覗かせる。


「どうしたの?」
「実は、落成式の備品業者から、当日みんなが帰ったあとに電話がきたんです」


 備品業者からとは、いったいなんの電話だったのだろう。

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