俺様社長に甘く奪われました
「あれは夢じゃなかったんですか……?」
「夢? 現実だ」
片方の眉を器用に動かし、望月が訝る。
「む、無理です……」
いったいどうしたというのだろう。屁理屈を言っているのは望月だって同じだ。
「無理な理由は?」
望月に切り返され、莉々子の目が泳ぐ。そんなものはないだろうと言っているように見える真っすぐな目から、逃げるような格好になった。それでも必死に頭を働かせる。
「……わ、私、彼氏がいるんです」
パッと思いついた最も的確な理由だった。これで望月もなにも言えないだろう。
莉々子が胸を張り自信をもって彼を見ると、望月はまるで真偽を探るかのようにその目を細めた。
逸らしてはならないと、莉々子が目に力を込める。
「恋愛はもう懲りているんじゃなかったのか?」
そういえばそうだったと莉々子が思い出す。先日のスイートルームで、望月にそんな話をしてしまったのだ。