俺様社長に甘く奪われました

 その隙を見計らって「失礼いたしました」と莉々子はその部屋から退散。一目散に彼女が向かったのは、松永のところだった。


「松永くん、ちょっといい?」
「な、なんですか?」


 彼の腕をむんずと掴み、総務部の部屋から引っ張り出す。


「お願い! 私の彼氏になって……!」


 莉々子が両手を顔の前で合わせて神様へのお願いのようにすると、松永は目をこれでもかというほど見開き「はぁ?」と盛大な声を漏らした。


「莉々子さん、俺に彼女ができたばかりだってこと知ってますよね?」
「もちろん知ってる」


 莉々子がうんうんとうなずく。毎日浮かれているのをさんざん目にしている。


「それなのにどうして俺に告白なんて」
「告白じゃなくて、彼氏のふりをしてほしいの」


 付き合い始めて間もないラブラブの松永に、いくらなんでも告白する勇気はない。もちろん莉々子に恋心自体も存在しない。

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