軍人皇帝の幼妻育成~貴方色に染められて~
講師は想像以上のシーラの歌声の素晴らしさにすっかり夢中になって、繰り返しピアノを演奏した。シーラも喜んで歌を続ける。
小鳥のさえずりのように愛らしく美しい歌声は、開いてあった窓から風に乗って建物の外にまで響いた。
偶然、宮殿の外通路を歩いていたアドルフがそれを耳にし、ふと足を止める。
「……歌か?」
「これはこれは……素晴らしい美声ですね」
アドルフの後について歩いていたヨハンも歌声に気づき、キョロキョロと辺りを見回す。
「オペラ……いえ、聖歌隊の子供でしょうか。どこで歌っているんだろう? 宮殿で練習の予定なんかあったかな」
不思議に思いながらヨハンがそばにいた秘書官に尋ねると、秘書官は「いいえ」と首を振ったあと少し考えるそぶりを見せた。そして、二階の窓のひとつを見上げて半信半疑気味に答える。
「……歌ではないのですが……、今、二階の広間ではシーラ様が楽器の授業をなさっています。もしかしたら……」
秘書官の言葉に、アドルフも、彼につき従えていた宮廷官達も目を丸くした。
確かに、歌声は二階の窓から聞こえてくる。アドルフはしばらく窓を見上げ続けた後、急ぎ足で歩き出した。ヨハンや宮廷官らも慌ててそれを追う。
外通路から建物内に入り二階に上がると、かすかにピアノの音と歌声が聞こえた。アドルフは声が聞こえる広間の前まで行き、オークでできた観音開きの扉をそっと開いて中を覗き見る。
するとそこには、気持ちよさそうに声を高らかに響かせるシーラの姿があった。
目を輝かせ頬をうっすらと紅潮させながら歌うシーラの姿は活き活きとしている。それはまるで春を迎えた花のように生命の輝きに溢れ、アドルフの目を釘付けにした。