軍人皇帝の幼妻育成~貴方色に染められて~
「これは……驚きですね」
アドルフの影から部屋の中を覗き込んだヨハンが、感嘆の溜息をつく。他の宮廷官らも皆、声の主がシーラだったことに驚き、感服しているようだった。
「いやあ、なんとも美しく可愛らしい声であらせられますな。まるでピッコロの演奏を聴いているようです」
「いえいえ、これはコマドリ、いや、カナリアのさえずりのようじゃないですか」
宮廷官らが次々に褒めそやす。今までまったくいいところを見せなかった未来の皇妃が、ようやく人を惹きつける長所を発揮したのだ。皇妃活動の役に立つかはさておいても、とりあえずは喜ばしい。
わいわいと賑わっていると、それに気づいたシーラが歌声を止めて振り向いた。
少しだけ開いている扉の向こうにアドルフの姿を見つけたシーラは、一瞬驚いたようすを見せたが、その顔は徐々に複雑なものへと変わっていった。
そして、ツカツカとアドルフに向かって近づいてきたかと思うと、扉のノブに手を掛け言い放つ。
「み……見ないでください!」
アドルフの鼻先をかすめ、拒絶するように強く閉められた扉に、その場にいた者達は唖然とした。
だが一番驚いた表情を浮かべているのはアドルフだ。
宮廷官らが冷や汗をかきながら「シーラ様は照れておられるのですよ」などと取り繕ったが、アドルフの眉間にはだんだんと皺が刻まれていく。