軍人皇帝の幼妻育成~貴方色に染められて~
話したくないという気持ちを表すため、シーラは無言のままクーシーの身体にますます顔を強く押しつける。
その様子を見て、アドルフは微かに眉根を寄せた。
「ちゃんと話を聞くんだ、シーラ。とにかくこちらを向け。クーシーから離れろ」
けれどシーラは顔をうずめたままイヤイヤと首を横に振ると、腕に力を込めてクーシーにしがみついた。
「何を拗ねているんだ。言うことを聞け」
焦れ始めたアドルフが無理やりこちらに向かそうと、シーラに向かって手を伸ばす。すると今までおとなしくしていたクーシーが突然牙を剥き出しにし、唸りをあげ出した。アドルフを険しい表情で睨み、今にもその手に齧りつきそうだ。
しかしアドルフはまったく怯む様子を見せず、片眉をあげて笑う。
「……ほう。助けてやった恩も忘れて、一人前にナイト気取りか」
皮肉気に呟かれた声には、本気の圧が籠もっている。その声色に驚いてクーシーの毛の間からチラリと覗き見たシーラは、彼の琥珀の瞳がクーシーと強い視線をぶつけあっていることに驚いた。
「シーラ、もう一度言う。この犬から離れろ。さもなくば今夜からこいつは犬舎行きだ」
「やめて! クーシーを連れていかないで!」
なんてひどいことを言うのかと、シーラは思わず顔を上げて叫んだ。ようやく怪我が治って一緒に暮らせるようになったのに、また引き離そうだなんてあまりにも冷酷過ぎる。
顔を上げたものの、クーシーをギュッと抱きしめ離れようとしないシーラに、アドルフが小さく舌打ちした。
「だったら言うことを聞くんだ。ちゃんと俺と話をしろ。そして話をしている間は、その犬は部屋から出しておけ」
「どうして? 私、クーシーと離れたくない。それに、今はアドルフ様とお話したくありません」
ただでさえ悲しくて苦しくてたまらないというのに、どうしてアドルフはそんな意地悪ばかり言うのだろうか。シーラの中にだんだんと反発する気持ちが芽生えてくる。
するとアドルフは眉を吊り上げ、今度はあからさまに不機嫌な表情になった。