軍人皇帝の幼妻育成~貴方色に染められて~
「俺と話すことより、その犬とじゃれあってる方がいいというのか」
「そ、そうです。だってアドルフ様、怒ってるし、意地悪ばっかり言うし。クーシーの方がずっとずっと優しいわ」
本当は心配して来てくれて嬉しかったのに、ついつまらない反発をしてしまった。シーラは咄嗟に後悔したが、もう遅い。
「――勝手にしろ」
冷たく言い放つとアドルフは立ち上がり、シーラに一瞥もくれず背を向けて部屋から出ていってしまった。
アドルフに突き放された態度をとられたことに、シーラはショックで固まる。
今まで彼はどんなに呆れても、シーラに冷たく背を向けるようなことはしなかった。なんだかんだと最後まで必ず面倒を見てくれたのだ。
「……アドルフ様……、すごく怒っちゃった……?」
呆然としていた顔が、みるみる泣き崩れていく。
いつまでもアドルフの出ていった扉を険しい眼差しで見つめていたクーシーだったが、シーラが幼子のように声をあげて泣き出すと、困ったようにか細い鳴き声を漏らした。
「どうしよう。どうしよう、クーシー。アドルフ様、すごく怒ってる。私のこと嫌いになっちゃったかも。もうキスしてもらえないかも。他の女の人とキスしちゃうかも……」
顔をグシャグシャにして情けなく鳴き続けるシーラの涙を、クーシーは慰めるように一生懸命舌で舐める。けれどそれでシーラが泣きやむはずもなく。
結局この日、シーラは夜遅くまで泣き続け、疲れて眠ってしまったまま朝を迎えたのであった。