軍人皇帝の幼妻育成~貴方色に染められて~
 
「ん……っ、くすぐったい……」

思わず身を捩ると、それを押さえるようにアドルフの手が肩に乗せられた。そしてその手はシーラの鎖骨をなぞるようにゆっくりと動き、胸元のリボンをほどこうとする。

そのときだった。部屋の扉を忙しなくノックする音が聞こえ、返事を待たずに外から声が聞こえた。

「陛下、テオドールです。申し上げます。南イルジア遠征軍より伝令がありました。支給お支度を整え、会議室へお越しください」

それを聞くとアドルフは、シーラを組み敷いていた身体をパッと起こし、「分かった、すぐに行く」と扉に向かって返事をした。

そして、目をパチクリとさせているシーラを少し戸惑った目で見つめ、大きな手で優しく頭を撫でてきた。

「……髪が乱れてしまったな。部屋に戻って侍女に直してもらうといい」

「……はい」

今されたことは、いったいなんだったのだろう。逸る胸は収まらないし頭は混乱しているけれど、とりあえずアドルフに急ぎの用事ができたようなので、退室した方がよさそうなことだけは分かった。

アドルフが手を差し伸べたくれたので、それをとってシーラはベッドから身を起こし、ボサボサになってしまった髪を少し手で撫でつける。そしてベッドを降り部屋から出ていこうとして、クルリと踵を返すとアドルフの前まで小走りで戻ってきた。

「アドルフ様。あの……もう怒ってない?」

謝罪に来たというのに、肝心なこと忘れていた。彼の口から赦しの言葉をもらっていない。

わざわざ問いにきたシーラに、アドルフは目をしばたたかせると、どうしてか少し恥ずかしそうに「……ああ、怒っていない」と答えた。

本来の目的が達成できたことに、シーラはホッと安堵の息を吐き満面の笑みを浮かべる。するとアドルフは口もとを手で押さえ、彼らしくないモゴモゴとした口調で話し出した。

「……俺の方こそ、昨日は大人げなかった。悪かったな」

その謝罪に、シーラの胸がぱぁっと明るく晴れた。目をキラキラと輝かせ、アドルフの手を小さな手でギュッと握りしめる。

「仲直り、ですね」

素直に謝れるのは良い人間の証だ。やはりアドルフはとても良い人に違いないという確信が、嬉しい。

手を握られたアドルフは眉尻を下げて照れたように笑うと、「そうだな」と頷いてくれた。
 
< 79 / 166 >

この作品をシェア

pagetop