メーデー、メーデー、メーデー。


 翌日から、木南先生の意向など関係なしに、容赦なく抗がん剤治療が始まった。

 木南先生のお母さんがいる時以外は常にグローブをはめられている状態の木南先生は、反論も反発もしない、何も話さない心を失くしたお人形の様になってしまった。

 誰が何を言おうとも、無反応。無表情。

 唯一言葉を発するのは、トイレに行きたい時と水が欲しい時だけだという。

 木南先生に無理矢理治療を受けさせる事に罪悪感はある。でも、それでもオレは、木南先生に生きていて欲しい。

 そんな木南先生が喜んでくれそうなニュースが、今日の午後に飛び込んできた。

 昨日木南先生が執刀した野村さんが、目を覚ましたのだ。

 やはり、左半身に麻痺が出てしまった野村さん。しかし、

 「木南先生にお礼が言いたい」

 野村さんは話す事が出来た。失語症も記憶障害も確認されなかった。予後治療に効果があれば、延命が可能。野村さんの書きたい小説が書けるかもしれない。
< 162 / 251 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop