メーデー、メーデー、メーデー。

 「…私の病気は、治る可能性が大いにある。だから治療したい早瀬先生の気持ちは医者として理解は出来る。だけど、捨てた女の命じゃない。もうあなたには関係のない人間の命じゃない。医者の自己満足の為に私の命を利用しないで」

 木南先生の声に湿り気が帯び出した。木南先生が涙を堪える時に出す声だった。

 「…何を言っているんですか? 木南先生」

 戸惑っている様子の早瀬先生の声は震え続けたままだった。
 
 「…蓮がいなくなって、悲しくて辛くて、どうしていいのか分からないくらいに苦しかった。あの時一緒にいたら、きっと私の事だから、あなたに恨み辛みを言いながら罵っていたと思う。でも、1人にしないで欲しかった。傍にいて欲しかった。1人で乗り越えられるほど、容易い出来事ではなかったもの。だけどあなたは私に、あなたを罵倒する事もあなたの前で泣き喚く事もさせてくれずに、家を出て転科をして、私を突き放して捨てた。
 …この3年間、私は仕事に没頭する事で、何とか生きていたの。それがなくなってしまったら、私にはもう、生きる術が分からないの。それなのに、むやみに生かさないで。…あなたは本当にどこまでも残酷」
 
 木南先生が切れ切れの声で話す。オレがいる位置からは木南先生の表情を伺う事は出来ないが、多分、我慢しきれずに泣いてしまったのだろう。
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