メーデー、メーデー、メーデー。
「…あの日私は、『蓮くんは、ご主人の知人のお墓がある墓地で殺された』と警察の方から聞いていました。テレビでも『父親の友人のお墓参りの際…』と報道されていました。友人ではなく昔の恋人のお墓である事を知ったのは、週刊誌を目にしたからでした。…あんなに『たくさん話をしよう』と約束していたのに、何で教えてもらえなかったんだろうって、悲しかった。あんな形で知らされて、凄く辛かった。
人間ってね、悲しい事が重なると笑うんですよ。あの時私は、これ以上の哀しみなんて存在しないんだろうなって思うくらいに苦しかったのに、『あぁ、浮気をされた時の気持ちって、こんな感じなのかな』って思ったら、泣きながら笑えてきたんです」
木南先生が、オレの知らない当時の話をし出した。
「私はあなたが、私と結婚する前から、した後もずっと、高校時代の彼女さんのお墓参りに毎月行っている事を知らなかった。どうして話してくれなかったのだろうと考えた時、『私には触れさせたくない大事な思い出なのだろう』と思いました。
もし、彼女さんが生きていたなら、あなたは私となんか結婚しなかっただろうなと思いました。彼女さんと結婚して、蓮ではない子どもと幸せに暮らしていたんだろうなって。
あなたが、本当に愛していた人と結婚する事が出来ていたならば、蓮は産まれてこなかった。産まれていなかったはずの命が消えただけ。…そう考えたら、私のこの悲しさは、虚しさは、一体何なのだろうか? と、わけが分からなくなりました。
あなたとの結婚生活も、蓮との時間も、私にとってはかけがえの無いものでした。でも、それは全部虚像でした。彼女さんの病気が治せていたら、あるはずのなかった家族なのだから。
存在する予定ではなかった蓮がいなくなった事に、哀しみ苦しむ自分の感情が間違っているのではないかと考えたりもしました。
そもそもあるはずではなかったものが、なくなっただけ。あなたと結婚していない時間、蓮がいない事が自然。今までが不自然だったんだ。自然な生活に戻るだけ。そう思いながら、蓮がいなくなった後の時間を過ごしていました。…でも、1度幸せな不自然に触れてしまうと、自然に還る事はなかなか難しいです」
ずっと1人で耐えていた胸中を明かす木南先生。