メーデー、メーデー、メーデー。

 「…見ていません」

 桃井さんに嘘を吐くのは心苦しいが、病室の中の光景を桃井さんに見せてはならない。桃井さんが傷付く顔を見たくない。

 「ここ、木南先生の病室ですよね? 明日、木南先生のオペがあるんですよね? 早瀬先生、中にいるんじゃないんですか?」

 ドアの隙間から中の様子を見ようとする桃井さん。

 「いませんて」

 その隙間を埋める様に身体を挟み込み、桃井さんの行動を阻止する。

 「何ですか? この怪しい動きは。明らかに何かを隠してますよね? 柴田先生」

 鈍感で不器用な木南先生や早瀬先生と違って、桃井さんは勘が鋭かった。イヤ、オレの嘘が下手くそ過ぎたのかもしれない。

 「何も隠していませんて」

 それでも嘘を吐き続ける。大根役者すぎる自分が嫌になる。
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